1972年に山下洋輔トリオに加入してから半世紀、78歳になった坂田明は現在も日本全国のみならず、ヨーロッパ中を駆け巡り勢力的に活動している。様々なグループの結成と解体を繰り返し続ける彼が、現在活動しているパーマネントなバンドの一つが坂田明COCODAだ。
サックス、クラリネット、歌、ベルなどを担当する坂田明。フリージャズと現代音楽が交差するピアニスト大森菜々。回文やイラストでも才能を発揮するなど、ジャンルを問わず活躍するベーシストかわいしのぶ。ポップスから即興演奏までボーダレスなプレイスタイルのドラマー坂田学(坂田明の息子)。この4人が最初に集まったのは、2018年。坂田明COCODAは、栃木県足利にあるココ・ファーム・ワイナリーで行われる収穫祭で演奏するためのグループとして生まれた。
コロナ禍の時期も限られた範囲で活動を続け、2022年10月に甲府桜座のステージを使って無観客で録音した。ヘッドホンを使わず、モニターも使わず、生音でバランスを取り、一発録りで収録したのが今作だ。録音はジム・オルークが担当し、透明感のある繊細でいてダイナミックな音像に仕上がっている。 「枯れたひまわり」というアルバムができたのは、坂田学が「枯れたひまわりのバラード」を作曲したことから始まる。“作曲の途中で、日本画家・堀文子さんの枯れたひまわりの絵と言葉のイメージがメロディーと重なり合い、何かに導かれるように曲を作っていると、父がサックスでメロディーを吹く音が頭の中で鳴り出した”と作曲者は語る。彼がイメージした絵が今作のジャケットに使用された、堀文子の名作「終り」である。
今作2曲目は、坂田明作詞作曲による「役立たず」。この曲に込められた思いは、本人が書き下ろしたライナーノーツに記されている。CDに同封される全曲解説も是非読んで頂きたい。 メンバー4人によって即興的に作り出された3曲には、「サミット」「どくだみ」「亀裂」という堀文子の絵のタイトルが付けられている。坂田明は“我々の音楽を頭で理解しようとせず、車窓から見える風景のように眺めてくれれば良いのです”とライブでよく言っている。変わりゆく景色のような即興演奏も、このバンドの特徴だ。
ヘンリー・マンシー二作曲の「ひまわり」は、2006年にチェルノブイリ連帯基金「がんばらない」レーベルからリリースしたチャリティー・アルバムに収録して以来、坂田明の代表的なレパートリーになっている。戦争の悲惨さを訴えた映画『ひまわり』が再注目される現在、映画のテーマ曲であるこの曲を十数年ぶりに再録音した。
2曲の「ひまわり」を含む今作が、今生きる人にどう響くのだろうか。
ミジンコは微塵子(ミジンコ)と書く小さな甲殻類であり、プランクトンである。